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如何ともしがたい何か

便所の壁に殴り書き

稲垣太郎「フリーペーパーの衝撃」(集英社新書)

フリーペーパーの衝撃 (集英社新書 424B)

フリーペーパーの衝撃 (集英社新書 424B)


 国内外のフリーペーパーを取材し、その紹介を通してフリーペーパーの特色を浮かび上がらせ、将来性や今後の可能性について探っている。著者は元々新聞記者だったということもあり、詳しく取材されているのが分かる。面白い。
 国内のフリーペーパーの特色として、徹底的に地域に根ざした内容で勝負している点が挙げられている。「ぱど」がその好例だ。共通項として、フリーペーパーの発行はあくまでビジネスであり、新聞が標榜するようなジャーナリズムの要素はまったくないとしている。元新聞記者らしい指摘だと思う。よくもわるくもだ。また最近、読者層を絞った内容のフリーマガジンが成功を収めている事例を取り上げている。レゾナンスが発行する「ahead(アヘッド)」だ。自動車情報を中心に据えた紙面作りに、東京電力など大手広告主が広告代理店を通さずに広告を出稿するという例が示唆的だ。マス媒体とは違い、ターゲットを絞った出稿ができるということもあり、十分広告媒体として成立しているということだ。ネット広告と似ているかもしれない。著者は、国内でのフリーペーパーは、読者の潜在ニーズを紙面で引き出し、その後に消費へとつなげていく入り口として重要になるとする。
 海外のフリーペーパーは、有料の新聞と同じように、ニュースを紙面に取り入れた内容になっている。新聞購読率が高い国でもニュースが読めるフリーペーパーが軌道に乗っている状況について、鋭い指摘がある。スエーデン発祥の「メトロ」を立ち上げたペッレ・アンデション氏の話として、読者には有料の新聞は読む時間がないほどの量で、なにより値段が高い。しかし、新聞社はそれに気がついているのかいないのか、増ページや値上げなどを行っている。その需給ギャップの隙に無料の新聞が入り込む余地があったとする。
 日本の例に戻り、リクルート「R25」の事例を読むと、さらにこのニッチの構造が浮かび上がってくる。
 リクルート社はR25発行までに入念な市場調査をしていることを紹介している。同社はいわゆる「団塊ジュニア世代」と呼ばれる男性に、徹底した調査をしている。その結果、アンケート調査では半分近くが新聞を読んでいないと回答した。しかし、対面調査ではほぼ全員が「読んでいる」と答え、銘柄は「日本経済新聞」と答える。実は理想像や体面としては新聞は読んでいるとしているが、現実は読まれていないことが分かった。
 しかし、調査結果はまだ続く。この世代は新聞を読んでいないが、それを不安に感じている人が多いということが分かった。そこで、時間をあまり気にせず、気楽に読める記事がそろったR25という媒体が入り込むことができたというのだ。R25の1つの記事は約800字で書かれている。これは普通の新聞の2番手くらいに置かれる記事よりも、若干少ないくらいの分量にあたる。
 さらに成功の鍵と思えるのは、この世代は可処分所得が多いのにもかかわらず、広告主がどうアプローチしていいか分からなかった世代という。リクルート社は、従来の新聞が取り込めなかった、記事を読ませるというニッチを発見し、広告主のニーズにもおあつらえ向きな媒体を開発できたということだ。その後のR25の快進撃ぶりは説明しなくてもいいだろう。
 新聞やテレビなど、大きくなりすぎた広告媒体の隙間を求めている人は多いはずだ。消費者だけでなく、広告主もそうだろう。そして、それを埋める媒体としてのフリーペーパーは、題名にもあるように衝撃的な存在だと言える。これは、日本でニュースを載せたフリーペーパーを発行しようとした編集者が、新聞業界から警察沙汰になってもおかしくない妨害を受けた事例からも、大きな意味を持つことなのだろうと想像できる。本当だったら相当ひどいぞ、この新聞業界の妨害工作は。
 広告媒体としての紙、そしてニュースを提供するための紙の両面から、フリーペーパーというメディアそのものをのぞくことができる面白い本だった。