如何ともしがたい何か

便所の壁に殴り書き

ブラトン「ソクラテスの弁明・クリトン」(岩波文庫)

 内容は今更ここで説明するのも野暮な話なので、感想だけを書いていきたい。

 実はこの本、たぶん高校生くらいだったと思うが一度手を出している。しかし、結局読み通せなかった。算数に出てくる分数も分からないような、極めて頭の弱い高校生だった自分には、脳みその処理能力を大きく超えた作品だったのだろう。

 そして10年以上がたち、だいぶ分数も分かるようになってきた今、ふとしたきっかけで書店の本棚にあったこの本を手に取った。ショウペンハウエル先生の「時間は限られている。古典を読むべし」という声に押されてやってきたのが、岩波文庫の並ぶ書棚で、その隅でえもいわれぬ存在感を放っていたのが「ソクラテスの弁明・クリトン」だった。460円なり。買った。

 原典に近い翻訳をあえてしていることもあり、読みづらさもいなめないものの、丁寧に読んでいけばまったく難しい要素のない内容だった。意外。解説もきちんとはしているが、やはり傍らには辞書が必要となる。気になった固有名詞はなるべく調べながら読み進めていきたい。

 内容は弟子のプラトンソクラテス自身の口から言わしめることで師匠の哲学を紹介する。裁判での弁明と、脱獄をすすめる友人クリトンとの会話を通して、ただ1つの太い信念に基づいてすべての行動を決めているという、ソクラテスの哲学を教えてくれる。

 ソクラテスは悩まない。なぜなら、行動すべてを決める哲学があるからだ。それは死刑判決が出た瞬間でも変わらない。人が悩むのは、行動を決める哲学に不備があるということの裏返しに過ぎない。悩まないだけの信念や哲学を整えることが必要だ。そして、それを曲げることなく貫く。それがただ生きるのではなく、よく生きるための唯一の方法なのかもしれない。