如何ともしがたい何か

便所の壁に殴り書き

高井ジロル,進藤英幸「『漢和辞典』に載っているヘンな漢字」

 インターネットをいじる仕事をしているので時折、Shift-JISやUnicodeやら文字コードの狭間に突き落とされて悩むことがある。そんな難しい活字を持ってこられても、ネット上では表示できませんよという話。Wordでは出力できても、ブラウザでは化けることがあるということを説明するのが面倒くさい。仕方ないのでgifで作字してHTMLに無理矢理埋め込む作業をする。そんな局面が多々あるお仕事楽しいなあ(棒)。

 さて、この本はそんな自分の悩みを面白く吹き飛ばしてくれる。いわゆる「諸橋大漢和」などなど国内外の漢和辞典に載っている変わった漢字を紹介するだけの本。

 しかしこれが面白い。漢字という世界の広さや奥深さを痛感できる。何よりビジュアル的に面白い。

 パラパラとめくっていくつかピックアップすると、「龍」を4つ並べた字が「多言」という意味。諸橋大漢和では最も画数が多い字という。「ナ」という形の漢字があって、これは「左」の原型。意味は「佐」が持つ「たすける」という意味。ちなみに「メ」という形の字は「五」の古字だという。「山」の下に「田」で「邦」の古字。「丼」の中の点が「水」になっている字は使用例があるものの、意味は不詳という。また、「予」の字をひっくり返した字がある、これは「幻」の本字。あとはもうどう説明したらいいのかわからないグネグネや点、丸が入っている字などなど盛りだくさん。Unicodeにすらない字も多い。

 と、これだけ珍妙な漢字と解説が並ぶと飽きてしまいそうだがそこは大丈夫だった。著者の高井ジロル氏と研究者である進藤英幸氏の絶妙な掛け合いで楽しく読める。真面目に解説する進藤氏の説明を聞きながらも、高井氏が字に対してツッコミを入れるなど、1文字ごとに短いコラムを読むような形でさらりと通読できる。

 漢字って面白いなと思える内容なのは間違いない。また、漢字の成り立ちや歴史にも興味を持つことができるという、その入り口として役立つ本なのではないだろうか。実際、思わずちょっと難しめな漢和辞典が欲しくなった。普段何気なく使っている漢字が、とんでもなく長い歴史の上に成り立っていると改めて思い返してしみじみ。今後はあまり文句を言わずに仕事します。たぶん。